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10メートル先の排水溝

朝の選挙活動
駅に向かってくる市民に対面して道を塞ぎがちに
政策理念のチラシを差し出している

そこから 10メートル先 の排水溝
喫煙者がお気に入りの排水溝

立候補者の顔は排水溝の方向を向いている

      「お願いします、お願いします」

隣の市民であると知る由もなく、誰彼なしに

      「お願いします、お願いします」

具体的に何をお願いしているのか 興味を抱かない、我々に




「煙草が排水溝にどんどん捨てられていますけど、何も感じませんか?」
立候補者の 右手の動き を止めさせ、聞いてみた

      「見えてなかった」

「すぐそこですよ、10メートル先 ですよ、あそこ」
彼が向いている その方向を指し示した




彼のメガネは曇ってはいなかった

10メートル先 の 非常識 でさえ見えていない者が、
その虚ろな曇った目で、市政を運営しようとしている

捨てられた煙草の行く末 を想像できない者が、
安易な想像では導ききれない市民の行く末 を握ろうとしている

煙草の煙に苦しみながら歩いてくる人たちの表情に気付かない、
人の痛みに鈍感な人が、市政を運営しようとしている


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煙草のポイ捨て

ある日のバス停で。
寒風がまだ凍みる浅い夜。
静かに列が伸びている。

後ろに並んでいたおじさん。
おもむろに煙草に火を点ける。
煙がゆるやかに強烈に流れてくる。
素早く振り返り、不快感を示す。

絶対捨てる、吸殻入れはない、
捨てるに決まっている。

バスが到着。
自然な流れで植え込みに踏み潰す。
捨てるのは決まっていた。

「オイ、捨てんなよ。何 捨ててんだ。持って帰れよ。」
許せない行為に対して、おじさんのズボンを靴裏で数回突付いた。

      「みんな捨ててるじゃん。」

「そんなこと言ってるから減らないんだろ。持って帰れよ。」

拾う気配はない。
更に踏み潰し、火を消しているようだった。
火を完全に消したことで良識を示したようだった。

おじさんは、ズボンの汚れをしきりに気にしていた。
煙草を捨てたことで酷く汚れることになったその場所で、
自分のズボンの汚れを不満そうに手で払い除けていた。

どこまでだったら捨てないのか。
自宅前の道路までなら捨てるのか。
玄関前なら捨てないのか。
家の中で同じようにポイ捨てはしないのか。

そこに無意識のテリトリーが存在しているのだろう。


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